こんな点が気になりませんか?
- 高断熱・高気密住宅では、VOCが室内に蓄積しやすくなるのか。
- 気密性能を高めた住宅では、どのような換気が必要なのか。
- TVOCの数値だけで、住宅の空気の品質を判断できるのか。
今回の研究は、こうした疑問を考えるための重要な手がかりになります。
結論:断熱・気密性能を高めるだけでは、室内の空気はきれいにならない
住宅の断熱性能や気密性能を高めることは、省エネルギーや快適性の面で重要です。
しかし、住宅の隙間が少なくなると、屋外との自然な空気の入れ替わりも減少します。
その結果、適切な換気が確保されなければ、室内で発生した化学物質が蓄積し、VOC濃度が高くなる可能性があります。
このことを、実際の住宅での測定とシミュレーションを組み合わせて検証した論文が、2026年9月に発表されました。
研究では、断熱・気密改修だけを行った条件で、冬季の室内空気質が次のように変化しました。
| 項目 | 改修前と比較した変化 |
|---|---|
| 隙間からの外気流入 | 62.3%減少 |
| TVOC濃度 | 29.6%上昇 |
| ホルムアルデヒド濃度 | 32.4%上昇 |
| CO₂濃度 | 28.1%上昇 |
| PM2.5濃度 | 25.8%上昇 |
※外気流入の減少率は改修前後の気密性評価に基づくものです。汚染物質濃度の増加率は、実測データで検証されたシミュレーションによる冬季の比較結果です。
一方、換気を追加した条件では、室内汚染物質の濃度は低下しました。
重要なのは、「高気密住宅が悪い」ということではありません。
この研究が示しているのは、気密性能と換気性能をセットで考える必要があるということです。
どのような住宅を調査したのか?
今回紹介するのは、中国・河南省の住宅を対象にした研究です。
対象となったのは、2009年に建てられた約126㎡の平屋住宅です。
研究者は、この住宅について断熱・気密改修の前後で室内環境を測定しました。
主な改修内容は次のとおりです。
- 外壁:100mmの断熱材を追加
- 屋根:50mmの断熱材を追加
- 窓:単板ガラスからLow-E複層ガラスに交換
- 玄関:断熱性能の高いドアに交換
こうした改修により、住宅の断熱性能と気密性能が改善しました。
ただし、この住宅は日本の新築高性能住宅とは異なり、石炭ストーブなどを使用する住宅です。
したがって、測定された汚染物質の濃度を日本の住宅にそのまま当てはめることはできません。
気密性はどのくらい変化したのか?
この研究では、住宅の気密性をブロワードア試験で測定しています。
これは、送風機を使って建物の内外に圧力差をつくり、隙間から漏れる空気量を調べる方法です。
改修前後の結果は次のとおりでした。
| 気密性に関する指標 | 改修前 | 改修後 |
|---|---|---|
| ACH50(50Pa時の漏気回数) | 11.8回/h | 4.46回/h |
| 通常の冬季条件での自然浸入換気量 | 0.54回/h | 0.20回/h |
隙間からの空気の出入りが大幅に少なくなったことが分かります。
自然浸入換気量は、ブロワードア測定を使って推定し、さらにCO₂濃度の減衰試験で検証しています。
自然浸入換気と計画換気は別物
ここで注意したいのは、自然浸入換気と計画換気は別物という点です。
日本の住宅では、気密性能を高めたうえで、換気設備によって必要な外気を取り入れる設計が行われます。
そのため、住宅の気密性が高いこと自体が問題なのではありません。
問題となるのは、隙間から入っていた空気が減ったにもかかわらず、それを補う換気が十分に確保されていない場合です。
室内のVOCはどのように測定したのか?
この研究では、改修前後の冬と夏に、それぞれ72時間の室内環境測定を行っています。
測定対象は、TVOC、ホルムアルデヒド、PM2.5、PM10、CO₂、温度、湿度などです。
VOCの測定に使われたPIDとは?
VOCの測定には、PID(光イオン化検出器)という測定器を使用しています。
PIDは、紫外線によってイオン化できる化学物質を検出する装置で、VOC濃度の時間的な変化を調べるのに適しています。
例えば、調理や暖房器具の使用後にVOCが増え、その後どのくらいの時間で低下するか、といった変化を追跡できます。
PIDによるTVOC測定には限界もある
ただし、重要な限界もあります。
PIDでは、どの化学物質がどのくらい存在しているかを個別に識別できません。
さらに、化学物質によって検出感度が異なるため、PIDで得られたTVOC指標と、GC分析によるTVOCは、同じ値として単純に比較できるものではありません。
今回の研究は、個別の化学物質の詳細な組成よりも、換気条件によって室内のVOC濃度指標がどのように変わるかに注目した研究と考えると理解しやすいでしょう。
研究結果:断熱・気密改修だけではTVOCが増加
研究者は実際の住宅で得られた測定結果を用いて、建物の熱環境と室内汚染物質の移動を計算するモデルを構築しました。
そして、次の4つの条件を比較しています。
S0:改修前の住宅
改修を行っていない基準条件です。
S1:断熱・気密改修のみ
断熱・気密性能を改善し、換気対策を追加しない条件です。
S2:断熱・気密改修+計画的な窓開け換気
改修に加え、決められた時間に窓を開ける条件です。
S3:断熱・気密改修+熱交換型機械換気
改修に加え、熱交換型の機械換気設備を使用する条件です。
冬季のTVOC濃度の比較結果は次のとおりです。
| 住宅条件 | TVOC指標 |
|---|---|
| S0:改修前 | 710 µg/m³ |
| S1:改修のみ | 920 µg/m³ |
| S2:窓開け換気を追加 | 550 µg/m³ |
| S3:機械換気を追加 | 420 µg/m³ |
※論文Table 6に示されたモデル比較値。PIDによる測定に基づくTVOC指標であり、GC分析によるTVOCとは測定上の定義が異なります。
改修のみの条件では、TVOCが約30%増加しました。
一方、窓開け換気や機械換気を組み合わせることで、TVOCは改修前よりも低くなっています。
この結果から、断熱・気密性能を高めることと、室内空気質を改善することは、自動的に両立するわけではないことが分かります。
なぜ、気密性が高まるとVOCが蓄積しやすいのか?
室内のVOC濃度には、主に二つの要素が関係しています。
- 室内で発生するVOCの量
- 換気によって屋外へ排出される量
室内で化学物質が発生し続けている場合、換気量が少なくなるほど、汚染物質は室内に蓄積しやすくなります。
ただし、VOC濃度が無制限に上昇し続けるわけではありません。
発生量と換気・除去量のバランスによって、濃度は一定の水準に近づくことがあります。
また、換気量が少なければ、一時的に発生した汚染物質が室内から減少するまでにも時間がかかります。
今回の論文でも、改修による空気の入れ替わりの減少が、汚染物質の蓄積や減衰の遅れにつながると説明されています。
室内のVOC濃度は、発生源と換気・除去のバランスで決まります。
そのため、住宅の空気質を改善するには、換気量だけでなく、室内でどのような化学物質が発生しているかにも目を向ける必要があります。
すべての高気密住宅は空気が悪いと言えるのか?
答えはいいえです。
今回の研究は、中国の特定の住宅を対象にしたものであり、改修後の空気質の比較にはシミュレーションが使われています。
さらに、対象住宅では石炭などの燃焼による汚染がありました。
したがって、日本の新築住宅でも必ずTVOCが29.6%上がる、という意味ではありません。
また、今回の研究では個別VOCの分析を行っていないため、木材由来のα-ピネンやD-リモネン、塗料・接着剤由来のVOCがそれぞれどのように変化したかまでは分かっていません。
それでも、室内発生源が存在する住宅では、換気量の低下が汚染物質の蓄積につながり得るという関係を、住宅の実測情報を使って検証したことには重要な意味があります。
空気環境改善研究所が考える、これからの住宅の空気質
空気環境改善研究所では、これまで新築住宅を中心に、室内空気中に含まれるさまざまなVOCを測定してきました。
住宅によっては、木材由来のα-ピネンが多い場合もあれば、塗料や接着剤、その他の建材に由来する成分が検出される場合もあります。
同じTVOCの数値でも、その中身は住宅によって異なります。
今回の論文は、VOC濃度の増減と換気の関係を考えるうえで大変参考になります。
一方、より詳しく住宅の空気質を評価するには、TVOCの増減だけでなく、どの化学物質が存在し、何が発生源となっているかを調べることが重要です。
エアみる法による個別VOC分析
空環研の「エアみる法」では、多種類のVOCを個別に分析することで、こうした室内空気の特徴を把握することを目指しています。
高断熱・高気密住宅の価値を高めるためにも、断熱・気密性能や省エネルギー性能だけでなく、換気が適切に機能しているか、室内の空気が実際にどのような状態にあるかにも目を向ける必要があると考えています。
まとめ:高性能住宅には「空気の品質管理」も必要
今回の研究から考えたいことは、次の3点です。
- 気密性の向上と十分な換気はセットで考える必要がある。
- 省エネ性能が向上しても、室内VOC濃度が改善するとは限らない。
- 住宅の空気質は、実際に測定して確認することが重要である。
高断熱・高気密住宅は、快適で省エネルギーな住まいを実現するための重要な技術です。
だからこそ、室内で発生する化学物質にも注意を払い、適切な換気と発生源対策を組み合わせることが大切です。
住宅の性能評価に、室内空気の品質という視点を加える。
これが今後の家づくりに必要な考え方ではないでしょうか。
今週紹介した論文
Liu, W. (2026).
Energy–Indoor Air Quality–Health Nexus in Rural Residential Retrofits: A Field-Calibrated Coupled Simulation and Multi-Criteria Evaluation for the Central Plains Transitional Climate of China.
Atmosphere, 17(10), 921.
公開日:2026年9月24日
オープンアクセス:無料で全文を読むことができます。
室内空気質の測定・評価について詳しく知りたい方は、一般社団法人 空気環境改善研究所のホームページもご覧ください。
ご相談は公式LINEから受け付けています。

