空環研公式動画 空環研通信

令和のシックハウスと室内空気の最新知見|2025室内環境学会で見えた4つのリスク

空気環境改善研究所の石坂 シックハウス対策 令和のシックハウス 室内空気と化学物質の研究者

こんにちは。令和のシックハウス対策に挑む、室内空気と化学物質の研究者、空気環境改善研究所の石坂です。今回は、先日参加した 2025年 室内環境学会 学術大会 で見えてきた、“現代の住まいが抱える4つの空気リスク” についてお話ししたいと思います。

空気の汚れは目に見えないからこそ、「何が危険なのか」「どこにリスクが潜んでいるか」このあたりをしっかり押さえていただけたらと思います。では、早速いきましょう。

動画で確認はこちら(11分)👉  https://youtu.be/K2bYNZDA6hE

【リスク①】自然素材住宅でも起きる「接着剤由来の室内空気汚染」

自然素材住宅は「空気がきれい」というイメージがありますが、今回の学会でも “自然素材=安全” とは限らない という事実が示されました。

エアみる法で見えるか

私が発表したデータでは、エアみる法で測定した住宅☝65番のトータルVOCが約3,800 µg/m3。その上位5成分の内訳は約2,000 µg/m3が自然素材由来、1,000〜1,200は 溶剤系・接着剤成分でした。

トルエンの代替物質による空気汚染例

この時、特に多かったのが メチルシクロヘキサン
これは室内濃度指針値が定められているトルエンの代替物質として接着剤に多用される成分で、自然素材住宅でもしっかり検出されていました。

複数の住宅メーカーの測定結果を比較しても、木の成分(緑)だけでなく溶剤成分(赤)が明確に存在しており、自然素材を使っていても、接着剤を多用すると空気は汚れるという典型的なパターンが見えてきました。この問題は空気測定をしない限り気づきにくく、だからこそ 「空気の見える化」 が欠かせないのです。


【リスク②】高断熱・高気密化による「空気滞留リスク」

次に、令和時代に入り住宅性能が上がったことで生まれている新しいリスクです。

高断熱・高気密住宅では、わずかな汚染源でも空気が滞留し、家全体に広がりやすいという特徴があります。今回の実例として紹介したのが、家づくりの最後に設置した アイランドカウンターの接着剤が家中を汚したケース

高断熱高気密住宅の空気汚染例

エアみる法のグラフでは、接着剤成分がほぼ全体を覆い、真っ赤になっていました。

高気密住宅だからこそ、換気が重要!!

今回の住宅は 北海道WB工法 友の会 との共同調査でした。新築直後の濃度が高いものの、通気断熱WB工法の換気性能の影響もあり、1ヶ月後には数値が大きく低下していました。これはWB工法のメリットがよく分かる結果でした。

一方で、より気密性の高い工法の場合は汚染が長期化する可能性もあり、令和の住宅では建材や接着剤選びは空気選びなりますし、「換気性能」が健康に直結する と改めて感じました。できるだけ良い建材を用いることが前提ですが、それが難しい場合は換気を重視する必要があります。


【リスク③】畳とイ草の減少がもたらす「空気浄化力の喪失」

三つ目のリスクは、意外にも 畳文化の衰退 です。

実は個人的に今回の学会の最も興味深く聞いたのがランチョンセミナーでの畳のお話。示されたデータでは、日本のイ草栽培面積は昭和40年頃の1万ヘクタール → 現在は10分の1以下に。本当に衝撃的な減少でした。

い草の作付け面積の減少

背景には安価な中国産イ草の流入が挙げられてきましたが、実は近年、中国産イ草すらほとんど輸入されていないとのこと。代わりに市場を占めているのは 樹脂製の「い草もどきの畳」

しかし、空気環境の視点で見ると、イ草と樹脂素材では役割がまったく違います。

● いぐさが持つ驚くべき空気改善力

い草の空気清浄効果

イ草の断面を見ると無数の穴があり、

  • 湿気の調整

  • VOC(揮発性有機化合物)の吸着

  • においの吸着・緩和

といった機能を自然に持っています。

アセトアルデヒドの吸着実験でも、いぐさやいぐさ和紙は他素材を圧倒する吸着力を示していました。

いぐさの減少 → 住まいの空気浄化機能そのものが失われつつある(もちろん生物多様性も)。
これが3つ目のリスクです。


【リスク④】生活の中に潜む「新しい化学物質リスク」

最後のリスクは、学会で話題になった4つのテーマを
「生活化学物質の新リスク」としてまとめたものです。

いずれも、現代の暮らしの中で見落とされやすい危険性が示されていました。


● 加熱式タバコの油粒子

加熱式たばこ

成蹊大学の研究発表では、加熱式たばこの新たな健康リスクの可能性が提示されました。

加熱式タバコは「紙巻きより安全」というイメージがありますが、実は白い煙の正体はプロピレングリコールやグリセロールといった「油」です。

その油に溶け込んだニコチンの量は、紙巻きタバコより多いというデータもありました。

また、この油の粒はベタッと残りやすく、口腔内や壁や家具に付着すると再び揮発してしまい、サードハンドスモークになる可能性があるとのことでした。


● PFASが空気やホコリから検出

カーペットからPFASが

水の問題で話題になるPFAS(ピーファス)ですが、室内空気やホコリからも検出されつつあるという報告がありました。

横浜国立大学の研究では、カーペットなどの繊維に使われる「撥水剤由来」と見られるPFASが、室内から検出されたとのこと。

撥水剤は「加水分解」といって、水と接触する過程で異なる物質へ変化し、それが空気中やホコリ中に再放散される可能性があるそうです。

日本は床に座ったり、寝転がったりする生活が多いため、床材・カーペット材からの影響は無視できません。今後ますます注目すべき化学物質だと感じました。


● 皮膚ガスとストレス・睡眠の関係

皮膚ガスによるストレスチェック

人間は口や鼻だけでなく、皮膚からもガスを放出しています。
その中で、ストレス臭と呼ばれる「ジアリルジスルフィド」という物質が注目されていました。

特に面白かったのは、睡眠の質との関係です。

  • 睡眠の質が良い → ジアリルジスルフィドが代謝され減少

  • 睡眠が短すぎても長すぎても → 増加する傾向

というデータが示されていました。

皮膚ガスの分析から「よく眠れたかどうか」が可視化される未来はもうすぐそこまで来ていると感じました。


● 匂い成分が脳に届く可能性

香り成分は脳まで届く?

広島大学のラットを使った実験では、揮発性有機化合物を吸わせた際に、

  • 匂い成分そのもの

  • 嗅覚細胞に付着した化学物質

が脳内で検出されたという報告がありました。

つまり「匂いを感じる」という感覚だけでなく、
物質そのものが嗅覚受容体に付着し、ストレスの原因になる可能性があるということです。

香り・柔軟剤・芳香剤・アロマなどの人体影響を科学的に解明していく重要性が、改めて浮き彫りになりました。


■ まとめ|令和の住まいは「複合的な空気リスク」の時代へ

今回の学会で浮かび上がった4つのリスクは、どれも現代的で複雑です。

  • 自然素材住宅でも接着剤で空気が汚れる

  • 高断熱・高気密住宅では汚染が広がりやすい

  • イ草の減少により空気浄化力が低下

  • 生活の中に新しい化学物質リスクが潜む

これらは、個別に見ても重要ですが、
住まい全体で考えると さらに大きな意味を持つテーマ です。

興味のあるテーマがあれば、ぜひご連絡ください。
今後の空間からの発信でも深掘りしていきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
室内空気と化学物質の研究者、空気環境改善研究所の石坂でした。


■ 空環研LINE公式アカウントのご案内

空気に関する最新情報を受け取りたい方は、ぜひご登録ください。

https://lin.ee/TaCKPn0

一般社団法人空気環境改善研究所の公式LINE


▶︎ https://line.me/R/ti/p/@153awirs

  • この記事を書いた人

空環研_石坂

空気環境改善研究所代表理事 石坂閣啓(イシザカタカヒロ) 三浦工業株式会社入社後、三浦環境科学研究所に配属 その後愛媛大学に出向、大学院農学研究科の環境産業科学研究室の助教を経て独立。 室内中の124種類以上の化学物質が検出可能な「エアみる」を使った空気測定を使って令和のシックハウス対策に取り組む 専門:室内空気中の化学物質汚染

-空環研公式動画, 空環研通信