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シックハウス問題は2種類ある?「初期型」と「長期型」の違いと現代の住環境が抱えるリスク_空環研通信_Vol.16

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「最近、長く住んでいる家で体調が優れない」そんな相談を受けることがあります。かつて話題になった「シックハウス問題」は、新築やリフォーム直後に症状が出るものが注目されていました。(これらの問題はまだ解決はしていません)。近年は「長期型シックハウス」と呼ばれる、じわじわと健康に影響を与える住環境の問題が注目されつつあります。この記事では、初期型と長期型の違いから、それぞれの原因、そして住まいと健康を守るための具体的な対策までを詳しくご紹介します。


シックハウス問題には大きく分けて「初期型」と「長期型」の2つがあります。初期型は、新築やリフォーム直後にVOC(揮発性有機化合物)が高濃度で放出されることによって、目のチカチカや喉の痛みといった急性の症状が現れるのが特徴です。一方で、近年注目されている長期型シックハウスは、SVOC(準揮発性有機化合物)と呼ばれる成分が室内のホコリに付着し、時間をかけてじわじわと健康に影響を与えるというものです。アレルギーやアトピー、喘息のほか、カビやダニの増殖とも関係し、より複雑な問題として広がりを見せています。本記事では、それぞれの違いと原因、そして現代の住まいに必要な対策について詳しく解説します。

▶️ 動画で確認されたい方はこちら(約9分)
https://youtu.be/HMtpc-0n5eI


この記事のポイント

  • シックハウスには「初期型」と「長期型」がある

  • 初期型はVOCが原因、長期型はSVOCとホコリが関係

  • 長期型はカビやダニとも複合的に関係し健康被害に

  • 掃除・換気・素材選びでリスクを低減できる

  • 高気密住宅には特に注意が必要


初期型シックハウスとは?──2000年代からの代表的な健康問題

いわゆる「初期型シックハウス」は、2000年頃によく取り上げられていた問題です。新築住宅やリフォーム直後の室内に入った際に、目のチカチカ感や喉の痛み、頭痛、倦怠感などの症状が現れるのが特徴で、「新築の家に住んだら体調を崩した」という事例が相次いだことで社会問題化しました。

主な原因とされているのは、建材や塗料、接着剤などから揮発するVOC(揮発性有機化合物)です。特にホルムアルデヒド、トルエン、キシレンといった物質が高濃度で検出されていたことから、規制が強化され、2003年の建築基準法改正では使用制限が設けられました。

これにより、現在ではVOCの放出量は大きく減少し、室内濃度が基準値を超えるケースは少なくなりました。ただし、これは「初期型の原因物質が別の物質に置き換えられた」に過ぎず、代替物質による体調不良の相談も少なくありません。

つまり、初期型シックハウスのリスクは軽減されたものの、問題そのものが解決されたわけではなく、かたちを変えて続いているというのが現状です。


長期型シックハウスとは?──見えない物質が健康をむしばむ仕組み

初期型に比べて、近年注目されているのが「長期型シックハウス」です。これは新築やリフォーム直後に症状が出るのではなく、数年から10年以上の時間をかけて、じわじわと体調に影響を及ぼしていくタイプの住環境リスクです。

主な原因は、VOCではなくSVOC(準揮発性有機化合物)と呼ばれる、より重くて揮発しにくい化学物質です。たとえば、プラスチックを柔らかくするフタル酸エステル(可塑剤)や、燃えにくくするための難燃剤などが代表例です。

SVOCはすぐに空気中に飛び散ることはありませんが、ゆっくりと時間をかけて揮発し、室内のホコリに付着しやすいという性質があります。
一度ホコリに付着すると、床や家具の隙間、カーテンや布製品などに蓄積し、少しずつ室内全体の濃度が高まっていきます。

このホコリが掃除機で舞い上がったり、エアコンや人の動きによって再び空気中に拡散されることで、知らないうちに吸い込んでしまったり、皮膚から取り込まれたりします。

そして、それが毎日、長期間にわたって蓄積されることで、アレルギー症状や肌荒れ、喘息、アトピーなどの形で体に影響が現れてくるのです。


カビ・ダニとの複合被害──化学物質が生物汚染を招く構造

長期型シックハウスの厄介な点は、化学物質だけでなく、カビやダニといった生物的要因とも密接に関係していることです。SVOC(準揮発性有機化合物)である可塑剤や難燃剤は、ホコリに付着しやすいという性質を持っています。

そこに湿気が加わると、ホコリに含まれた化学物質がカビの栄養源となり、室内でカビが発生・繁殖しやすくなります。さらに、カビを餌とするダニの繁殖も促され、空気中にはアレルゲンや化学物質が複雑に混ざった状態が広がります。

こうして、化学物質→カビ→ダニという連鎖的な悪循環が起こり、喘息やアトピー性皮膚炎、慢性的なアレルギー症状など、さまざまな健康被害が引き起こされるのです。

また、こうした環境で長期間生活することで、化学物質過敏症(MCS)を発症する人も増えています。MCSは、ごく微量な化学物質にも反応し、頭痛、吐き気、集中力の低下など、日常生活に支障をきたすほどの症状が出ることがあります。

最近では、柔軟剤や芳香剤による「香害(こうがい)」が新たな公害として取り上げられることも増えており、身近な日用品からも長期型シックハウスのリスクが潜んでいると言えるでしょう。


住環境を守るための対策とは?──日常の工夫でリスクを減らす方法

長期型シックハウスのリスクに対して、私たちが日常でできる対策は少なくありません。もっとも基本的で効果的なのが、「ホコリをためないこと」です。

SVOCはホコリに付着しやすいため、定期的な掃除が非常に重要になります。特に、床や家具の隙間、カーテンの裏、布団の下など、ホコリがたまりやすい場所を重点的にきれいにすることで、化学物質の蓄積を防ぐことができます。

北海道大学の研究チームも、室内掃除によるホコリ除去がSVOCの室内濃度を大きく下げる効果があると発表しています。

また、空気清浄機の導入も効果的です。フィルター性能の高い空気清浄機であれば、空気中に舞い上がったホコリごと化学物質を除去でき、特に就寝時などの密閉された空間での使用がおすすめです。

さらに、計画的な換気も非常に大切です。現代の住宅は高気密・高断熱化が進んでいるため、空気の流れが滞りやすく、化学物質が室内にこもりやすい構造になっています。

換気システムの見直しや、自然換気を取り入れる工夫をすることで、室内にたまった有害物質を外に排出し、空気を入れ替える習慣をつけることが健康維持に繋がります。

建材選びと施工方法にも目を向けよう──“空気の質”を考える家づくりへ

これから新築やリフォームを検討する方にとって、健康的な住環境を実現するための最大の鍵は「素材選び」と「施工の方法」にあります。

まず、建材については、できるだけ石油化学製品を避け、自然素材を選ぶことが基本です。たとえば、クッションフロアや塩ビクロスの代わりに、無垢材や和紙クロスなどの自然素材を使うことで、SVOCの発生を抑えることができます。

ただし、自然素材だからといって必ずしも安全とは限りません。使用する接着剤や防腐剤に含まれる成分にも注意が必要です。せっかく良質な素材を選んでも、施工時にVOCを多く含む材料を使ってしまっては意味がありません。

また、塗料の過剰使用を避けることも大切です。自然塗料であっても、成分によっては敏感な方に影響を与える場合があります。仕上げ材や塗布量、換気の計画を含めて慎重に検討しましょう。

そして最も伝えたいのは、こうした素材や施工法の選択そのものが、家の中の空気をどう設計するかという“空気の質”のデザインそのものであるということです。
どんな建材を選ぶかが、どんな空気に包まれて暮らすかを決める。つまり、「建材選びは、空気選び」なのです。

健康に暮らせる家をつくるためには、見えない空気こそ、設計段階から意識してつくり込んでいく必要があります。


まとめ

シックハウス症候群には、新築直後に症状が出る「初期型」と、長期間かけてじわじわと体に影響を与える「長期型」があります。
現代では、SVOCによる長期型シックハウスの影響が深刻化しており、アレルギーや喘息、化学物質過敏症といった症状が増加しています。

こうした問題への対策として、ホコリをためない掃除、空気清浄機の活用、そして計画的な換気が効果的です。しかし、それだけでは十分ではありません。

最も根本的で持続的な対策は、建材選びの段階から空気の質を意識することです。どんな建材を選び、どんな施工をするかが、住まいの空気をつくります。

「建材選び=空気選び」――これは、これからの住宅において欠かせない視点です。
健康に暮らせる空間は、意識して選び、設計してこそ実現できるもの。
住まいづくりを考えるときには、ぜひ“空気の設計図”を描くという視点を持ってみてください。


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  • この記事を書いた人

空環研_石坂

空気環境改善研究所代表理事 石坂閣啓(イシザカタカヒロ) 三浦工業株式会社入社後、三浦環境科学研究所に配属 その後愛媛大学に出向、大学院農学研究科の環境産業科学研究室の助教を経て独立。 室内中の124種類以上の化学物質が検出可能な「エアみる」を使った空気測定を使って令和のシックハウス対策に取り組む 専門:室内空気中の化学物質汚染

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