私たちの体、住まい、そして地球環境は、本来つながっています。では、何でつながっているのでしょうか。私は、それは「空気」だと考えています。
住宅は、単なる建物ではありません。私たちが毎日呼吸し、眠り、食事をし、家族と過ごす場所です。つまり住宅は、私たちにとっていちばん身近な環境です。
最近の住宅は、高断熱・高気密化が進み、とても快適になりました。冬は暖かく、夏は涼しく、省エネにもつながる。これは住宅性能の大きな進歩です。私自身、その価値を否定するつもりはまったくありません。
ただ、住宅の性能が上がったいまだからこそ、その先を考えたいのです。
せっかく性能でコントロールできるようになった室内の環境を、どんな空気で満たすのか。性能は、快適さの土台をつくるところまで。その上にどんな空気を置くかは、私たちの選択に委ねられています。
機械的に空気を取り込み、風の音も雨の音も聞こえないような家の中の環境は、地球の自然環境から遠く隔離されたシェルターのような状態に思えてしまうのです。
昔ながらの日本の家では、家の中や縁側で四季を感じることができていました。家の内側と外側の空気(気配)がつながった住宅、つまり自然環境と住宅が連続していた住居の良さも、残していく必要があると感じています。
「気配」という言葉のこと
日本語には、「気配」という言葉があります。「気を配る」と書きます。この「気」は、空気の「気」でもあります。
空気の変化を感じる。その場の雰囲気を感じる。季節の移り変わりを感じる。私たちは空気を通じて、周りの世界をかなり細かく感じ取っています。
みかんの花が、町を包む
私は以前、愛媛県に十年以上住んでいました。現在は、生まれ故郷である静岡県浜松市の三ヶ日に住んでいます。愛媛と三ヶ日には、共通点があります。どちらも、みかんの産地です。
私は一年の中で、四月の終わりから五月にかけての時期がとても好きです。その理由の一つが、みかんの花の香りです。
みかんの花そのものは、近くで嗅いでも、ものすごく強い香りというわけではありません。ところが、地域全体に花が咲くと、風に乗って香りが広がり、町全体がみかんの花の香りに包まれるような感覚になります。
外に干した洗濯物にも、その香りが移ることがあります。夜、干していたパジャマを着ると、ふわっとみかんの花の香りがする。これは本当に気持ちがいいものです。
家の中にも、センス・オブ・ワンダーはある
センス・オブ・ワンダーとは、自然に驚く心、自然を感じる心です。それは森や川や海の中だけにあるものではありません。家の中にもあるはずです。
太陽の光を感じる。
風の通り道を感じる。
木の香りを感じる。
季節の変化を感じる。
雨の降り始めを感じる。
雨の音を聞く。
こうした感覚は、単なる気分の問題ではありません。私たちの健康や、生活の質、クオリティ・オブ・ライフにも関わるものだと思います。
私たちは、目だけで世界を見ているわけではありません。耳だけで世界を聞いているわけでもありません。空気の中に含まれる匂い、湿度、温度、風の動き。そういったものを、体全体で感じています。
とくに子どもたちは、大人以上に、空気の変化や場の雰囲気を敏感に感じ取っているかもしれません。家の中で、子どもがどんな空気を吸っているのか。どんな香りを感じているのか。どんな湿度や温度の中で過ごしているのか。そのことを、私たちはもう少し丁寧に考えてもよいのではないでしょうか。
「感じる」を、「見える」に
ここまで、空気を「感じる」ことについて書いてきました。けれど私は研究者です。感覚だけに頼ることの危うさも、よく知っています。
心地よいと感じる空気が、本当に体にやさしい空気とは限りません。逆に、感覚では気づけない化学物質が、知らないうちに室内に溜まっていることもあります。だからこそ私たちは、空気を「見える化する」という重要性を伝えるという使命があると考えています。
感じる力を取り戻すこと。そして、感覚では届かない部分を科学で見える化すること。この二つがそろってはじめて、子どもや家族が安心して深呼吸できる住まいに近づける。私はそう考えています。
家の空気は、子どもが毎日出会っている、いちばん身近な自然です。そしてその自然をつくっているのは、家そのものだけではなく、そこで暮らす私たちでもあります。
あなたの家の中には、センス・オブ・ワンダーがありますか。
一般社団法人 空気環境改善研究所
代表理事 石坂 閣啓(農学博士)
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